撮影された舞台は、茨城県 鹿島、潮来、牛堀という地域で通称 鹿行地区(ろっこうちく)
昭和30年代のこの地区は、交通も不便で陸の孤島と呼ばれ、生活も貧しく、いろいろなものが遅れていた。
見渡すばかりの水田と砂だらけのこの地域に鹿島臨海工業地帯という高度経済成長を支えるために巨大なコンビナートがやってきた。
街の生活は一変したわけだが、住んでいる人の心は、閉ざされた閉塞感のままだった。
物語は、コンビナートが立ち並ぶ工業地帯と水田が広がる田舎の風景の中の話である。
閉塞感
日本映画の多くは、田舎の描き方が「景色が綺麗」とか「自然がたくさん」なんてことも多いけど
実際に暮らしている人たちは、閉塞感を感じている人が多いと思います。
この映画の主人公 山沢幸雄(根津甚八)は、ダンプの運転手をやって 家族(妻+子供二人+親)を養っている。
少々荒っぽいが、子どもたちを大事にしているというところから物語が始まる。
そんななか、子供二人が、川で亡くなってしまいます。
そこをきっかけに、幸雄は、入れ墨、弟の元恋人 順子(秋吉久美子)と同棲をはじめる。
やがて、仕事の不安なども重なり 覚せい剤に手を出してしまい、転落してゆくという話です。
狭い社会の中で暮らす閉塞感、刺激のない日常、家族、兄弟の確執などが絡まり 幸雄は、最悪の状況に追い込まれてしまう。
兄弟の葛藤
弟は、東京の建設会社で働き、やがて、故郷に戻り、ダンプカーの運転手として働くことになる。
一度、故郷を離れ、東京で仕事をしてきた弟は、外の世界を知っている。
一方、兄は、家族を支えてきたという自負があり、兄弟の間に確執が生まれている。
ラスト近く 堕ちてゆく兄と地元で幸せをつかもうとしている兄弟の対比が、描かれている。
田舎の風景
茨城県 鹿島、潮来、牛堀という地域で撮影されています。
自分は、潮来(それも外れの浪坂:なさか)出身で18歳まで暮らしていました。
この映画で描かれている風景は、ほとんど見覚えがあるし、役者さんたちの方言もそのままである。
ですから この映画の世界がよくわかります。
自分は、この田舎の閉塞感が嫌いで18歳で東京に出てきました。
この映画に描かれている風景、地域、生活は、自分が生きていたそのものを描きだしている。
役者
幸雄(根津甚八)の破滅に向かう姿と順子(秋吉久美子)が心に刺さる演技をしている。
蟹江敬三、小林稔侍など脇役たちも若い。
そして、この映画の役者さんのすごいところは、当時の方言を忠実に再現しているところである。
地元出身の自分が聴いていてもあまり違和感がない。
兄弟
自分は、兄もいて この映画と同じように兄が田舎に残っていました。
この さらば愛しき大地 という映画を20歳のころ兄と潮来の映画館に観に行きました。
都会に出ていったばかりの20際のガキには、正直、理解できないことも多かった。
60歳近くになって あらためてこの映画を見ると 故郷を捨てた心に何が響きます。
特に兄との関係は、この映画の兄弟に近いかも知れない。
兄弟と連絡をとらなくなってん10年近くなるけれど いろいろなことが頭の中を巡ってきた。
故郷を捨てた自分は、兄にいろいろなことを押し付けてしまったのかも知れない。
もう遅いけど いつかそのことを話したい。
傍の目には、いい兄弟と思われていたかも知れないけど 事実は違う
映画の景色などとっくに変わってしまい。
町名を変わり、人も変わった。
でも、映画の中の田んぼの景色は、心の中にいつまでも残っているだろう。
その兄も長い闘病生活の末に亡くなった。
最後に言葉を交わしたのは、30年前
病気と言うことも死ぬまで知らなかった。
まとめ
この映画は、娯楽作品ではない。きれいごとなど一切ない残酷な映画である。
そのことは、ラストシーンに象徴されている。
ネタバレになるので何も書きませんが、
「よく、あなたの実家はいいところだね」
なんて 言われることがありましたが、景色はきれいでも人は、どこに住んでいても寂しく弱いものである。
この映画のロケは、自分が生まれた街である。
ですから この兄弟の葛藤はよくわかるし、閉鎖的な社会も理解できる。
この映画の時代と今のこの街は変わっていますが、根本的なことは、何も変わらない
久しぶりに潮来にでもゆこうかな
もう 親はいないし、兄もそこにはいないと思うけど・・・
映画情報
さらば愛しき大地
監督 柳町光男
脚本 柳町光男
製作 柳町光男
池田哲也
池田道彦
出演者 根津甚八
秋吉久美子
山口美也子
音楽 横田年昭
撮影 田村正毅
編集 山地早智子
製作会社 プロダクション群狼
アトリエ・ダンカン
公開 1982年4月9日
上映時間 130分
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