1970年代はオカルト・ホラー映画の黄金期でした。
その中でも特に強いインパクトを残したのが『エクソシスト』(1973年)と『オーメン』(1976年)です。
どちらも「悪魔」をテーマにしていますが、恐怖の描き方や社会的な影響、日本での受け止め方には大きな違いがありました。
この記事では、『オーメン』を軸に両作品を比較し、日本での文化的インパクトを深掘りしていきます。
『エクソシスト』──悪魔憑きの直接的恐怖
『エクソシスト』は、実際の悪魔祓い事件をベースにした物語で、少女リーガンに悪魔が取り憑くという衝撃的な展開で話題となりました。
嘔吐、首が180度回転するシーン、宙に浮くベッドなど、視覚的・肉体的な恐怖表現が前面に押し出されました。
この直接的な描写は当時の観客に強烈なショックを与え、アメリカでは心臓発作を起こして病院に運ばれる観客がいた、という報道まで生まれています。
『オーメン』──予言と運命による間接的恐怖
『オーメン』は「悪魔の子=反キリスト」という存在が中心で、悪魔そのものは姿を現しません。
外交官夫妻の養子ダミアンの周囲で不可解な死が続発し、やがて彼の正体が黙示録の「666」に結びついていく……
恐怖の中心は不可避の運命にあり、観客は「次に誰がどう死ぬのか」という不安にじわじわと追い詰められます。
直接的ショックの『エクソシスト』に対し、『オーメン』は心理的・運命論的な恐怖を深化させた作品といえます。
日本における受け止め方の違い
日本公開時、『エクソシスト』は「映画史上最も恐ろしい作品」として大々的に宣伝され、オカルトブームの火付け役となりました。
週刊誌やワイドショーでは「実際の悪魔祓い事件」が紹介され、カトリックとは縁の薄い日本でも宗教的恐怖を娯楽として消費する動きが広がりました。
観客の多くは「ショッキングな映像体験」を目当てに映画館に殺到し、映画は社会現象となりました。
一方で『オーメン』は、『エクソシスト』で高まったオカルト人気の土台の上に公開されました。
そのため「次はどんな恐怖が来るのか」という期待感とともに受け入れられ、特に“666”や“悪魔の子”といった予言的モチーフは週刊誌やテレビでも盛んに取り上げられました。
また『オーメン』はショック映像に頼らず、サスペンス的に積み重ねる恐怖演出だったため、日本の観客からは「知的なホラー」「背筋が凍るような映画」として評価されました。
エンタメと同時に“黙示録的恐怖”が一般大衆に浸透するきっかけにもなったのです。
『オーメンの呪い』が日本の宣伝を加速
日本で『オーメン』が話題になった理由の一つに、「オーメンの呪い」と呼ばれる一連の不幸な出来事が宣伝に利用されたことが挙げられます。
主演のグレゴリー・ペックが乗るはずだった飛行機が墜落、特殊効果スタッフの悲劇的事故、動物園での飼育員死亡……
これらは海外メディアで大きく報じられ、日本でも「本当に呪われた映画なのではないか」との噂が広まりました。
結果として観客の好奇心を煽り、公開当時の劇場は連日満員。オカルト映画を「恐怖の対象」だけでなく「話題性のある娯楽」として消費する日本的スタイルが確立したのです。
総括──ホラー映画の双璧としての位置づけ
『エクソシスト』と『オーメン』は、同じ「悪魔」を題材にしながら、恐怖のアプローチが大きく異なる作品でした。
『エクソシスト』は宗教的儀式を通じた“見える悪魔”との直接対決。
『オーメン』は予言と運命による“見えぬ恐怖”
この二作の成功によって70年代のオカルトブームは完成され、日本でも映画館に行列ができるほどの社会現象へと発展しました。
特に『オーメン』は、「悪魔の子ダミアン」という普遍的アイコンを生み出し、ホラー映画史において金字塔的存在となったのです。
オカルト映画の系譜(年表形式)
1970年代のオカルトブームから21世紀まで、悪魔・予言・エクソシズムをテーマとした映画は数多く生み出されました。ここでは『エクソシスト』と『オーメン』を軸に、その系譜を年表形式で振り返ります。
公開年 | 作品名 | 解説 |
---|---|---|
1973年 | エクソシスト | 12歳の少女に悪魔が憑依。宗教的恐怖と衝撃的な映像表現で世界的社会現象を巻き起こす。 → 解説記事はこちら |
1976年 | オーメン | 「悪魔の子=ダミアン」を描いたサスペンスホラー。直接描写ではなく“運命の恐怖”で観客を震撼させる。 → 解説記事はこちら |
1978年 | オーメン2/ダミアン | 成長したダミアンが自らの運命を知り、暗黒面へと歩んでいく。シリーズの転換点。 → 解説記事はこちら |
1981年 | オーメン/最後の闘争 | 大人となったダミアンが世界支配を狙う完結編。壮大な黙示録的スケールで幕を閉じる。 → 解説記事はこちら |
1991年 | オーメン4(TV映画) | ダミアンの血を受け継ぐ少女が主人公となる番外編。劇場公開ではなくテレビ映画として放送。 → 解説記事はこちら |
2005年 | エクソシズム・オブ・エミリー・ローズ | 実際の悪魔祓い事件を題材に、裁判劇とオカルト要素を融合。21世紀のエクソシズム映画の代表作。 → 解説記事はこちら |
2006年 | オーメン(リメイク版) | オリジナルを現代風にリメイク。公開日を“6月6日=666”に合わせた話題作。 → 解説記事はこちら |
2010年 | ラスト・エクソシズム | フェイクドキュメンタリー手法で悪魔祓いを描く。新世代ホラーとして注目された。 → 解説記事はこちら |
2021年 | エクソシズム・デミッション | 修道院を舞台にした最新エクソシズム映画。宗教的儀式を現代的に再構築。 → 解説記事はこちら |
2023年 | エクソシスト/信じる者 | 50年ぶりの公式続編。オリジナルの世界観を継承しつつ現代的恐怖を描く。 → 解説記事はこちら |
こうして振り返ると、『エクソシスト』が開いた“悪魔の扉”は、『オーメン』によって“予言と運命の恐怖”へと深化し、その後も形を変えながら受け継がれてきました。
年表で並べることで、オカルト映画の系譜がいかに連続性と進化を持っているかが見えてきます。
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